なんにもなかった今日について
お昼に近所の中華屋さんに行った。
僕は寮に住んでいて、部屋にキッチンがないので、昼はどうしても外食か買って食べるものになるのだ。
近所だけど、初めて行くお店だった。
お店は昔ながらの町の中華屋さんといった感じで、とてもきれいとは言えなかったが、雰囲気のあるお店だった。店内には大人の本や大人のポスターがたくさん貼られていた。
僕は味噌ラーメンを頼んだ。
味噌ラーメンを待っていると、前の席にいた常連らしい大工さんに話しかけられた。
大工さんは30代後半くらいの男の人でお子さんが3人いるらしかった。
かなり長い時間おじさんと話したが、特にここに書けるほど、面白い話はできなかった。というか、ひたすら愛想笑いをしていた。表情筋、フル活用だった。
おじさんは未だに√の概念がわからないこと。
おじさんは某大手コンビニのことを「イレブン」と呼ぶこと。
おじさんと話して気になったのはこの2つくらいだ。
セブンイレブンを略すときの2択で、「イレブン」の方選ぶ人いるんだ…。
と疑問に思ったが、北海道出身の友達が北海道ではよく聞くよ。と教えてくれたので、地域によって違うものなのだろう。
思いがけず勉強になった。
あ、味噌ラーメンは美味しかった。
値段の割にボリュームもあった。
だけど、またあのおじさんに会うのはちょっときついので、もう行くことはないだろう。
その足でスーパーに行った。
料理はしないのでお茶とトイレットペーパーと、氷を買いに。
今はウイルスの感染拡大防止のために、レジではお客さん同士がかなり間隔をとって並んでいる。
さらに店内にはお客さんがたくさんいたので、10分くらい僕はレジに並んでいた。
僕はイヤホンで音楽を聴きながら、なんとなく前に並んでいる男の人をじっと見ていた。
後ろからなので、顔は見えないが、恐らく30代くらいの男性で、ぽっちゃりしていて、黒いTシャツにジーンズ、背中にはわりと大きめのリュックを背負っていて、頭には黒いキャップを被っていた。
しばらく見ていると、前の男が被っていたキャップのツバを後ろにして、キャップを被り直した。
僕はなんとなく、男が被り直したキャップに注目した。
男のキャップには白いプリント字で
「CRAZY BOY!」
と書かれていた。「!」は僕のアドリブだが。
宣戦布告だ。
この男は、わざわざ僕に見えるように
「オレはイカレた野郎なのさ!!」
とキャップの字を読ませることで、宣言してきたのだ。
もちろん男の顔は見えないが、
「どうだ!クレイジーボーイだぞ!参ったか!」
的なドヤ顔をしていることは間違いないだろう。
やれやれ。僕も見くびられたものだ。
確かに一瞬怯んでしまったが、僕だってもうクレジットカードで買い物できちゃう大人なのだ。
多少のクレイジーにびびったりなんかしない。
この男が今から仕掛けてくるであろうクレイジーを
「まぁ、そういう人もいますよね。」
と冷たくリアクションして、この男のクレイジーを無効化して、この男の存在をなんか変な感じにすることくらい、今の僕には容易いものだ。
それから、僕は前の男の一挙一動に注目した。
男が何かクレイジーを仕掛けてきたら、ソーシャルディスタンスの範囲内で何か妨害してやろうと思った。
男のカゴにはわりと商品がたくさん入っている。
最初はカゴを手に持っていたのだが、疲れたのだろう。途中からカゴは床に置いていた。
そのくらいだった。
男は結局、クレイジーなことを何もしなかった。
あろうことか、お会計のときにポイントカードを使っていた。
僕はがっかりした。
イカれたクレイジー野郎がポイントをコツコツ貯めて、少しでも日々の買い物をお得に済ませよう。
としているその魂胆が気に食わなかった。
「クレイジー野郎がポイントカード使うなよ!てか、お前が内臓脂肪を減らす働きのある方の緑茶買うなよ!」
僕はがっかりして家に帰った。
帰ってきて、古畑任三郎を見て、昼寝をしたらもう夜ごはんの時間だった。
夜ごはんを食べて、課題をやろうとして、やっぱりやめて。ずいぶん前に勉強用で買った本を読もうとして、やっぱりやめて。2日無視してる先輩からのLINEを返そうとして、やっぱりやめて。腹筋を20回して、やめた。
こう書いてみると自分でもびっくりするくらい何もしていない。
そんな夜。そんな今日。