タンポポを引っこ抜けるかについて
小学1年生か2年生の頃に、理科の授業(正確には生活科)で授業時間にみんなで近くの公園を探索するというのがあった。
公園に行くと管理人みたいなおじさんがいて、その人が公園にある花や虫や木について、あれこれ説明してくれる。それらの中で自分が気に入ったものをスケッチして下に説明文を書くという内容の授業だった。
おじさんがタンポポの話をしてくれた。
「これは、セイヨウタンポポといって外来種のタンポポです。日本のタンポポと違って花の根本が反り返ってピラピラしているのが特徴だよ。最近、日本のタンポポをめっきり見なくなったなぁ…もしかしたらこのセイヨウタンポポのせいかもね…。」
ふーーーん。が僕の正直な感想だった。
タンポポも色々いて、タンポポの世界も大変なんだなぁ…。と自分とはまるで関係ない話だと思っていた。
それより僕はみんなの注目を集めたくて、四つ葉のクローバーを探すのに夢中だった。
公園探索の時間が終わった。
ちなみに、四つ葉のクローバーは見つからなかった。切羽詰まった僕は三つ葉のやつをちぎって、四つ葉のクローバーを偽造した。
7歳にしてこの悪行。性根が腐ってるとしか思えない。
僕らはみんなで歩いて学校に戻っていた。すると突然何人かの笑い声が聞こえたので、僕は後ろを振り返った。
笑い声の震源地に目を向けると、
同じクラスの友達のM君が道路のアスファルトをつき破って咲いているセイヨウタンポポをブチブチと抜いていた。
周りは笑っていたが、M君の顔は真剣だった。
M君は歩いている最中に道端に咲くタンポポを見つけては、花の根本を観察して、ピラピラが確認できると容赦なく抜きまくっていた。
そういえばおじさんはタンポポは食べられるとも言っていた。
まじか。M君。帰ったら給食の時間なのに。
食べるつもりなのか?と聞いてみると
M君はいたって真剣に
「こいつがいるから、日本のタンポポが大変なんだ!」と僕の方には一瞥もくれずに、ひたすらセイヨウタンポポを抜き抜きしていた。
驚いた。というかなんでM君がそこまでタンポポに真剣になれるのか本当にわからなかった。
日本のタンポポに親でも救われたのだろうか。
今考えると、きっとM君はとても素直で、優しい子なんだろう。
当時の僕は、幼いながらにM君がどれだけセイヨウタンポポをぶち抜いても、M君1人の力ではタンポポ界は何も変わらないことを、なんとなく察していた。
それは多分、僕自身への諦めでもあった。ちっぽけな自分が何か行動したところで世界は変わらない。
だから、僕はタンポポのことを他人事にして、自分の世界から無かったことにした。
でも、M君は立ち向かった。小学生の僕たちにとっては巨大すぎる壁。セイヨウタンポポに。
M君は、日本タンポポのピンチを自分の世界の物語として、受け入れた。
当時の僕は、
そんなM君をバカにしたのだろうか?
それとも尊敬したのだろうか?今でははっきり覚えていない。
ただただ強烈な思い出として、13年経った今でも僕の心に残っているのだ。
今のご時世。友達と遊びにいけない。飲みにもいけない。学校にすらいけない。
「自分くらい……。」弱い僕は、部屋に1人で居る2ヶ月弱の間に何回も脳裏をよぎってしまった。
でも、その度に13年前の春、引っこ抜かれてアスファルトに散らかっていたセイヨウタンポポを思い出して、僕は我慢するのだった。