黒歴史日記。

なで肩です。

卒業

今日、自動車学校を卒業した。

 

僕が自転車学校に通い始めたのは、去年の春頃だった。

 

大学の3年生にもなると周りのほとんどの人が免許を持っており、「なんで取らないの?え、いつ取るの?」と言われ続け、満を持しての入校であった。

 

入校にあたってはもちろん、AT限定を選択させていただいた。

 

これまでの経験で、自分がメンタル面においても技術面においても運転が得意なわけがないことはわかっていたので、しっかり身分をわきまえた選択を取らせていただいたのだ。

 

入校し、1時間だけマリオカートみたいな機械をガシャガシャやったら次の時間からはもう実車に乗っての教習だった。

 

めっちゃびっくりした。

「え!?もう!?もう乗るの!?まだ何もわからないのに!?」

 

つべこべ言いながらも運転席に座らされ、エンジンをかけるように言われた。

 

びっくりするくらい怖かった。

なんせ、琴奨菊10人分くらいの重さがある鉄の固まりを自分が操作するのだ。

 

そのとき自分で運転した「時速15km」はもう信じられないくらい速かった。いや、速いなんてもんじゃない。

もはや「光」とか「音」とかそのレベルの速度だった。

 

あの日、僕は「光」になったのだった。

 

 

「光」になった僕は、それから運転するのが怖くて仕方なくなり、教習所にはなかなか足を運ばずにいた。

 

それでも教官の方がとにかく皆さん優しかったのと、「まぁ、最悪事故っても俺と教官が死ぬだけか!」とポジティブなのか、ネガティブなのかわからない、教官の優しさをありったけの仇で返すような決意を固めたのとで、なんとかかんとか第一段階を突破した。

 

修了検定を合格すると、遂に道路に出ての教習が始まった。

 

まじめちゃくちゃ怖かった。

万が一、路上で事故を起こしてしまうと僕と教官の命だけでは済まされない。

 

「おいおいこれは本当に人が死ぬど……。」

縁もゆかりもない岡山の方言が思わず飛び出すくらいには恐怖だった。

 

第二段階が始まってからは、さらに僕の足は遠のいた。

 

これまでは「教習に行った帰りには美味しいものを食べて帰っても良い。」という母が予防接種に僕を連れて行くために発動していた必殺タクティクスをそのまま採用して使っていたのだが、それも途中から限界がきていた。

 

 

1週間起きに行こう。いや、2週間起き、いやいや3週間起き…

 

そうこうしてるうちに教習所から

「ねー、早く来てよー。期限やばいよー?」とメールが来た。

これをしばらくスルーしてると「ねー。まだ来ないのー?」と手紙が来た。これも鮮やかにスルーを決め込ませていただいた。

「いや、はよ来いし!!!」と電話が来たところでようやく僕は教習所に再び通い出した。

 

 

僕の不安とは裏腹に教習はポンポンと進んでいき、あっという間に卒業検定直前の教習までいった。

 

ちなみに教習がポンポン進んだのは僕の技術力云々ではもちろんなく、教習所の方々の必死のサポートがあったからだ。本当に感謝してもしきれない。

 

卒業検定前の最後の教習、教官は40代くらいの優しいおじさん「マツオ」さんだった。

 

優しいマツオさんは教習の終盤、卒業検定に何か不安なことはありますか?と声をかけてくれた。

 

不安しかなかった僕は

「不安で、不安でたまらないの。だから、お願い。もう少し、そばにいて?」

要約するとこのようなことを言った。

 

 

優しいマツオさんは僕のラブコールを受けて、明らかに動揺していた。

 

これはマツオさんが童貞だから動揺したわけではもちろんない。

 

教習をサボりにサボって期限ギリギリになって、焦って駆け込んできたジャリボーイが、この期に及んで教習を延ばして欲しい。とほざき出したからだ。

 

優しいマツオさんは

「いやいや、君は運転慎重だし大丈夫だよ。とりあえず検定受けてみなよ。」と決して僕の運転が上手いとは言わずに温かく返してくれた。

 

「そんな…、もし私が検定受かったら…、私たち…2度と会えなくなるんだよ?そんなの……、私やだよ!」

僕は要約するとこのような言葉を返した。

 

マツオさんは

「いやいや大丈夫ですって!いいから受けてくださいって!」

 

と今度はヤッたら「はい、終わり。」の軽くて冷たい男のような返事だった。

 

もちろん実際のマツオさんはそんな人ではない。

 

散々教習をサボって「カニってもう少しまずければ人類に今ほど食われてなくて幸せな人生…カニ生?歩んでたのになー。」とわけのわからないことを考えていたのにも関わらず、この期に及んで卒業したくないとかなんとかゴネ出した丸顔の男が全て悪いのだ。

 

 

そんなこんなでマツオさんとの濃密な時間を過ごした僕は遂に今日、卒業検定を受けた。

 

雪が降ったり、救急車とパトカーがわんさかきたり、ラジバンダリ、色々あったが無事に検定は合格し、晴れて卒業が決まった。

 

なんとか教習期限内にこのじゃがいもを教習所から追い出せた…。ということで教習所の方々も一緒になって僕の合格を喜んでくれた。

(いや、ほんとにご迷惑をおかけいたしました。ありがとうございました。)

 

卒業検定が終わって、なんか卒業式?みたいなのが行われた。

 

名前を呼ばれたら教室の前に出てきて、各自卒業証明書を受け取る。

 

1番最初に名前を呼ばれたのは僕だった。

 

思ったより座っていた椅子の足が粘着質で、椅子を引くのに若干苦労しながらも前に出てきて、卒業証明書を受け取る。

 

「え、拍手とかもらうもんなんかな…。え、なんか思い出とか、一言話した方が良いのかな?」

 

と一瞬その場で固まってしまったが、

「あ、もういいですよ。席に戻ってください。」と言われ、言われた通り席に着いた。

 

「なにか」を待っていた欲しがりさんみたいに思われてたらどうしよう……。とドキドキしていたら卒業式?は終わった。

 

 

あとは学科の試験を受けて、合格したら晴れて免許交付だ。

 

学科の試験を受けられる期限は1年。

 

 

 

 

 

この長い長い下り坂を君を自転車の後ろに乗せて下ったり、打ち上げ花火が空に消えていったり、妖精たちが刺激してきたりする季節までには、なんとか試験を受けようと思っている。