黒歴史日記。

なで肩です。

おじさんについて

僕は将来おじさんになる。

 

僕がこの先どんな将来を選択して、どんな仕事に就こうが抗えない事実。

 

僕は将来おじさんになるのだ。

 

 

おじさんは選ばれない。

 

バスや電車に乗ってくる若い人や女性は、空いている座席をキョロキョロ見渡して、おじさんの隣以外の席を探して座る。

 

基本、おじさんの隣にはおじさんしか座らない。

 

 

おじさんは選ばれない。

流行りのスイーツやお出かけスポットのターゲットは、ほとんど若者か女性で、おじさんはそもそも相手にされない。

 

この国のトレンドを決める会議の際には、おじさんの存在はガッツリ無視される。

 

おじさんは許されない。

おじさんはゴルフをしているだけで、

「あー、そうなんですねー。なんか、いかにもですね。」

と周りの反応はよろしくない。

 

おじさんは髪を染めただけで、

「えー、あいつ若作り?」と会社の人に陰で言われる。

 

おじさんはコンタクトに変えただけで

「えー、あいつのくせになんかイメチェン?」と経理の女の子に陰で言われる。

 

おじさんは許されない。

おじさんがカラオケで米津玄師を歌ったら、

「いやいや無理すんなよー。」と入社2年目の女の子に陰で言われる。

 

おじさんがタピオカを飲んでいたら、

「あいつ、どーした?」と会社の女子更衣室がその話題でもちきりになる。

 

おじさんは好きなスポーツをすることも、容姿を気分転換に変えてみるのも、流行りの歌を歌うのも、流行っている飲み物を飲むことさえも許されない。

 

 

おじさんは馬鹿にされる。

 

「えー、それおじさんっぽい。」

「おい、おじさんじゃないんだからー。」

これらは完全に悪口として使われている。

 

「おじさん」とはただ単に男性に対する名称として使われる言葉のはずが、なぜか完全に負の意味を持った言葉として、広く使われてしまっている。

 

存在そのものが、悪いことを表現するときのモノとして使われてしまっている。

 

 

 

「満員電車に揺られるぐったりとした顔のおっさんみたいなつまらない大人に俺はなりたかねぇ!!!」

 

みたいな若者の言葉をよく聞く。

 

 

これは完全に言いがかりだと思う。

 

だって、おじさん。「移動中」だもん。もっと言えば「出勤中」だもん。

 

これは完全に僕の偏見だが、いくら人気のあるキラキラしたアイドルだって、現場に向かう車の中では

わりと魂が抜けたような顔をしているのではないかと思う。

 

だって「出勤中」だもの。

いくらアイドルだって、本当はもう少し家でゆっくりしていたかっただろうし、仕事に向かうときに憂鬱な気持ちが一切無いなんてことはないだろう。

 

満員電車のおじさんは、バリバリ働いてる様子や、家族を大事にしてる様子や、趣味に没頭する様子は一切見られずに、人間みんながまぁまぁ魂が抜けてるであろう時間の「出勤中」の様子だけを見られて

「つまらない人生」

と判断されてしまうのだ。

 

かといって、満員電車でニヤニヤしていても

「なんか、電車にキモいおじさん居てさー。」と朝のホームルーム前に女子高生に悪口を言われる。

 

おじさんになす術はない。

 

 

 

 

当たり前のことだが、おじさんが身を削って戦ってくれているから僕らは生活ができている。おじさんがいてくれたから、僕たちは産まれてくることができた。おじさんが今まで頑張ってきたから、若い世代が活躍できる場があるのだ。

 

この世界があるのはおじさんのおかげなのだ。

 

 

おじさん、本当にありがとう。

 

 

 

実は先ほど、近所の本屋で、おじさんが鬼滅の刃を手に取って

「ほぅ、これが…」といった顔で表紙と裏表紙を見ていたのを目撃した。おじさんは嬉しそうだった。

 

が、僕の視線に気づくと、おじさんはすぐに鬼滅の刃を棚に戻してそそくさと文庫コーナーに移動してしまったのだ。

 

 

 

おじさん。ごめん。

 

わけの解らない東京について

中二病という病にがっつりかかっていた僕は、

上京が決まった高3の時期に「東京」というタイトルがつく曲を片っ端から調べて聴きまくっていた。

 

これらの曲のほとんどが、上京する若者の決意や、戸惑い、都会の荒波に揉まれながらも懸命に生き抜く様などを歌っていて

「俺も、こんなんなるんやなぁ…」

とまだ福岡の実家にいるにも関わらず、早くも感傷的になっていた。

 

特に好んでよく聴いていたのは

KMCの「東京WALKING」

くるりの「東京」

だった。

 

『東京の街に出て来ました。

あい変わらずわけの解らない事言ってます』

くるりの「東京」はこのようなフレーズから始まる。

 

確かに僕が上京したその日から、東京はわけの解らない事を言っていた。

 

 

 

羽田空港に着いた。

「ニューヨークスタイル!」

というわけの解らないうたい文句のチーズを使ったスイーツに、大勢の人が並んでいた。

 

「北海道チーズ!なら美味しそうなイメージあるけど、ニューヨークのチーズって全然うまそうじゃねぇな。これにみんなそんなに並ぶのかよ。」

バカで中二病な僕の率直な感想だった。

 

空港から自宅までいくのに電車の乗り換えを調べると、4つの路線を乗り換える必要があることがわかった。わけが解らなかった。

 

品川~新宿間で乗った山手線の車内では

標準語、方言、外国語が飛びかっていてわけが解らなかった。

 

新宿に着いて、せっかくだから都庁を見に行こうとしたのだが、駅の構内は様々な案内板や出口がごちゃごちゃあって、わけが解らなかった。

 

結局僕は南口に出て、そこから都庁に行くのにもずいぶん時間がかかった。

 

新宿には

わけの解らない服装をした人々たくさんいた。

わけの解らないカタカナの名前で、わけが解らないくらい大きさのビルがいっぱいあった。

何屋なのかわけの解らないお店がいくつもあった。

 

新宿、東京は当時の僕にはわけが解らなかった。

 

 

 

 

 

 

東京にきて3年目になった。

(警察は僕が万引きするのを待っているのかも…)

 

今年の冬は帰省のお土産に空港で列に並んで「ニューヨークチーズ」のスイーツを買った。

(多目的室を多目的に使ったことがない…)

 

家族と食べたニューヨークチーズは美味しかった。

(O型はなんでも許される…)

 

今では電車の乗り換えは間違えずにできる。

(CRAZY BOYと書かれたキャップ被ってるやつがポイントカード使うなよ…)

 

山手線はイヤホンをして、ひたすら遠くを見ていれば魂を殺せて、何も気にせずに乗っていられることがわかった。

(失恋した直後にマヨネーズを見たら元気が出てきた…)

 

新宿の地理にはまだ自信がないけど、お気に入りのショップをいくつも見つけたし、駅から都庁へはスムーズにいけるようになった。

(自粛がつらくなったら、タンポポを思い出す…)

 

 

振り返ってみると、3年前に比べて東京が言ってることの意味が解るようになってきた気がする。

 

 

(ノートパソコンとダイオウイカの寿命は同じ…)

(好きな食べ物は?の質問の正解はコロッケ…)

(ラブホテルが俺のセリヌンティウス…)

(ツーブロックは刈り上げてと言えば恥ずかしくなく頼める…)

(俺は自意識過剰マンや…)

 

 

振り返ってみると、あい変わらずわけの解らないことを言っていたのは僕の方かもしれなかった。

 

くるりの「東京」の中でわけの解らない事を言っていたのは誰だったんだろう。

 

 

もう一回聞いたら、わかるかもしれない。

職務質問について

僕はたまに職務質問を受ける。

 

僕が捕まる場所はいつも決まって近所のスーパーの出入り口である。

 

毎回万引きを疑われるのだ。

 

今回もそうだった。スーパーで買い物を終えて外に出ると

「ちょっとお兄さん!」と言われて警察官に止められた。

「カバンの中、見せてもらっていいかな?」

いつも、このパターンである。今回は初めて見る警察官だった。

 

もちろん、なにも盗ったりしていないので、素直にカバンの中を見せる。

 

毎回、出入り口から、ほとんど移動せずにそのまま

「抜き打ち!カバンの中身チェック☆」が行われてしまうので、他のお客さんに見られるのがすごく恥ずかしいのと、この間に何か重大な事件が起きて、この警察官の出動が遅れたら大変だな…と心配になるのとで、どうしてもそわそわしてしまう。

 

今日のカバンの中身は

財布と定期入れと、さっき買った緑茶と歯磨き粉とピーナッツチョコとハイチュウだった。

 

 

歯を大事にしたいのか、痛めつけたいのかわからない僕の買い物ラインナップを見た警察官はつっこみも笑いもしなかった。

 

「あ、買ったやつのレシート財布に入ってます。」

と僕が言う前に

「財布の中も見ていい?」

と聞かれた。

財布の中にはバイトの社員証が入っていて、社員証には無理に笑顔を作ろうとして、絶妙に気持ち悪い顔になってしまった自分の写真が貼ってあるので、それを見られてまた恥ずかしかった。

 

学生証を見せて、カバンの中身を全部見せて、僕の疑いは無事に晴れた。

 

よく万引きを疑われる旨を警察官に話して、どうして僕に声をかけたのか尋ねてみると

「大きめのトートバックを持っているし、君ずっと挙動不審だし、急に途中で止まって別の方に歩いたりして、怪しかったんだよ。」

と言われた。

 

なんか、恥ずかしかった。

 

「なにやってたの?」

警察官に聞かれた。

 

やましいことは何もしていないが、嘘をつくのはためらいがあったので僕は本当のことを言った。

 

「なんか、外に出ると面白いこと見逃したらやだな。と思ってキョロキョロしてるのかもしれません。急に止まったのは一瞬目に入ったポスターを1回はスルーしたんですけど、やっぱり見ないと損かな。と思って戻ってポスターを見に行ったんです。」

 

僕は全部正直に話した。

 

警察官は共感したわけでも、なんだそれは!と笑ってくれたわけでもなかった。無表情のまま

「ふーん、ポスター、なんて書いてあったの?」

と聞いてきた。

「あ、なんか近くのお寺、朗読会やってそれをYouTubeで発信するらしいです。」

 

「へぇ…、見るの?」

「いや、見ないです。」

 

5秒くらい沈黙があった。

 

耐えられなくなって、沈黙を破ったのは僕だった。

 

 

「あの、僕、同じ警察官の人にまったく同じ場所で何回も職質受けて、そのたびに何もないね〜って言われるのに、それでもまた職質受けたりするんですよ。これって、警察の方々で僕がいつか本当に盗るの待ちだったりしませんか…??今回こそは…!!みたいに楽しんでる部分ないですか?」

 

警察官はやっと笑って

「そんなことないですよ笑」

 

と言った。

 

図星かも知れなかった。

 

 

 

 

警察の人に敬語を使われたのはこれが初めてだったのだ。

歩いて見つけた見栄っ張りについて

僕は毎日、人が少ない朝か夜に散歩に出かける。

 

家から西の方に10分歩くと、

「豊岡マンション」はある。(一応仮名です。)

 

僕は「豊岡マンション」が好きだ。

 

「豊岡マンション」はとても横暴で見栄っ張りなのだ。

 

「豊岡マンション」は築年数の想像がつかないくらいのボロボロの建物だ。外から部屋の様子が見えるのだが、どの部屋も窓までゴミでパンパンになっている。建物の外壁に書かれた「豊岡マンション」の文字はツルがかかっていて見づらい。

 

さらに、僕が思うマンションにしては、かなり規模が小さいうえ、軽い素材でできている。

 

が、あくまで「豊岡マンション」は自分はマンションだ!!と言い張っているのだ。

 

これが「豊岡荘」だったら僕は何の気もなく通り過ぎていただろうが、この建物はあくまで自分をマンションだと名乗っている。

 

その様がなんだかとても愛おしく思えるのだ。

 

3歳の男の子に

「おれ、ひみつけっしゃのぼすやけん、つよいとよ!」

と言われたのを思い出した。その時はいや、お前ヒーロー側じゃなくていいんか。とは思ったが、やっぱり僕はこの子を愛おしく感じた。

 

このときに感じた気持ちと似たような感情を僕は「豊岡マンション」に抱いた。

 

 

 

 

小学校にも中学校にも高校にも自然教室にも少年会館にも、

「多目的室」があった。

傲慢だなぁ。と思った。

 

今まで僕が出会ってきた「多目的室」は全て、ちょっと大きめの教室。というだけだった。

 

僕は多目的室を「少し多めの人数のときの会議」にしか使ったことがない。

 

「多目的室」を多目的に使ったことがない。

というか、ただただちょっと大きめの教室。なだけの空間を、どう多目的に使えばいいというのか。

 

多目的に使ってよ!という割にはあまりに設備が乏しい。

 

だってお前、ただの大きめの教室やぞ。

 

でも、そんな「多目的室」もまた、愛おしく思える。

 

「ちょっと大きめの教室」でしかないのにも関わらず自分のことを

「多目的室」というかなり攻めた名前で名乗るこの部屋にもなんとも可愛げがある。

 

「万能ナイフ」だってそうだ。「万」という桁違いの数字を使っておきながら、実際の機能は8個〜10個くらいで、それもばっさり言ってしまえば、

「切る」「あける」の2種類の使い方しかないのに

自分を「万能ナイフ〜!!」と言い張る。かわいい。

 

「マジックペン」

「マジック」という不思議な力でなんでもこなせちゃいそうな単語を自分の名前につけているにも関わらず、「マジックペン」の機能は"書く"の1つのみだ。

 

"書く"はペンであれば当たり前の機能なのに、自分を「マジック」

と言い張る「マジックペン」かわいい。推せる。

 

 

見栄っ張りは良くないことだと言うけれど、かわいいものじゃないか。

 

 

そんなくだらないことを考えながら、だらだら歩いた。気づいたら家の目の前だった。

 

自分の部屋に戻って、携帯を開く。

大学3年生の僕はこの自粛期間に、就活の情報サイトに登録していた。といってもこのご時世、まだほとんど情報は流れてこない。

 

そのサイトのプロフィールに『趣味』と『特技』を書く欄がある。人様に自慢できるようなものはなにもなく、僕はずっと書けないでいた。

 

 

 

『趣味』→『多趣味』

『特技』→『多芸多才』

 

 

 

と書いてみて、すぐ消した。

O型様について

A型の人…几帳面でまじめ

B型の人…マイペースで楽観的

O型の人…おおざっぱでおおらか

AB型の人…個性的で天才肌

 

この国でなんとなくみんなが信じている、なんとなくの血液型別の性格である。

 

なんとなく人が集まった場で、なんとなくこの話題が出ることは多いし、毎回なんとなく盛り上がる。

 

僕はこの、なんとなくの血液型に対する性格のイメージに何度も助けられている。

 

僕は人より手先が器用に動かせない。

字は汚いし、まつり縫いはできないし、織り鶴は折れないし、折りたたみ傘は使う前と同じサイズにたためない。

 

ただ、僕はO型なのだ。

 

家庭科や図工の時間でどうしてもできない作業があったら、

「俺、これ苦手なんだよね。O型だから…」

と友達に頼んだら、仕方なしといった感じで引き受けてくれた。

 

自分の目の前にピザが置かれたときも

「あー、俺これうまく切れないんだよな〜。O型だから…あ!◯◯ってA型だよね!はい!!」

と渡せば、A型の友達は仕方なしといった感じでピザを切ってくれる。

 

それを見てる他の友達は誰もつっこまない。

 

みんな、O型が切るピザよりA型が切るピザの方が綺麗で美味しいと信じている。

 

友達が僕のノートを借りた。僕のミミズの這ったような字の解読に困っているようだった。

「あ、ごめん。字、読めないよね…俺、O型だからさ…雑なんだよネ☆」

と言ったら、友達もあー!だからだよね!みたいな反応をしてくれた。

 

じゃあ、遠慮なく!といった感じで

「ここなんて書いてんの?」と聞いてくれて、なんか変な感じの空気になるのをおさえてくれた。

 

というか、このときに関しては僕はノートを貸す前から

「あー、でも、あれだなぁ。俺…、O型だからさ…」とぶつぶつ言ってしっかり保険をかけていた。

 

このように、僕は自分がO型であることをぶんぶん振り回して生きている。

 

作業が雑になったり、できないものがあったりしても、O型"だから"で許されたし、たまに丁寧な仕事ができたらO型"なのに"と褒めてもらえる。

 

つくづくO型で良かったと思う。

 

O型は僕のマイナス部分の責任を負ってくれるし、僕のたまに見せるプラスの部分はさらにプラスに押し上げてくれる。

 

100%、僕が悪いのに

「O型だから!」の一言で、んー、じゃあなんかしょうがないね!と他人に思わせることができるO型はもはや僕にとって、みんなにとって、逆らえない神様みたいな存在だと思う。

 

夏場はやたら蚊に刺されるような気もしないでもないが、そんなのは気にならないくらい、O型様は僕らを日々、生きやすいように導いてくれる。

 

 

 

 

 

 

そういえば、僕が好きだったあの人はAB型だった。

 

たしかに「自分」をしっかり持っている人で、他の人には気づけないようなところまで、丁寧に考えることができる素敵な人だった。

 

AB型"だから"だよね。

で済ませてしまうのはとても失礼だけど、たしかに人とは違うような他人を惹きつける"何か"をもっている人だった。

 

調べてみるとO型の男性とAB型の女性の相性は良くないらしい。

 

どうやら、O型様は僕らが別れた原因まで、僕のせいではなく自分のせいにしようとしてくれるようだ。

 

 

 

 

 

余計なお世話だ。と思った。

なんにもなかった今日について

お昼に近所の中華屋さんに行った。

僕は寮に住んでいて、部屋にキッチンがないので、昼はどうしても外食か買って食べるものになるのだ。

 

近所だけど、初めて行くお店だった。

お店は昔ながらの町の中華屋さんといった感じで、とてもきれいとは言えなかったが、雰囲気のあるお店だった。店内には大人の本や大人のポスターがたくさん貼られていた。

 

僕は味噌ラーメンを頼んだ。

 

味噌ラーメンを待っていると、前の席にいた常連らしい大工さんに話しかけられた。

 

大工さんは30代後半くらいの男の人でお子さんが3人いるらしかった。

 

かなり長い時間おじさんと話したが、特にここに書けるほど、面白い話はできなかった。というか、ひたすら愛想笑いをしていた。表情筋、フル活用だった。

 

おじさんは未だに√の概念がわからないこと。

おじさんは某大手コンビニのことを「イレブン」と呼ぶこと。

 

おじさんと話して気になったのはこの2つくらいだ。

 

セブンイレブンを略すときの2択で、「イレブン」の方選ぶ人いるんだ…。

と疑問に思ったが、北海道出身の友達が北海道ではよく聞くよ。と教えてくれたので、地域によって違うものなのだろう。

 

思いがけず勉強になった。

 

あ、味噌ラーメンは美味しかった。

 

値段の割にボリュームもあった。

 

だけど、またあのおじさんに会うのはちょっときついので、もう行くことはないだろう。

 

 

 

その足でスーパーに行った。

料理はしないのでお茶とトイレットペーパーと、氷を買いに。

 

今はウイルスの感染拡大防止のために、レジではお客さん同士がかなり間隔をとって並んでいる。

 

さらに店内にはお客さんがたくさんいたので、10分くらい僕はレジに並んでいた。

 

僕はイヤホンで音楽を聴きながら、なんとなく前に並んでいる男の人をじっと見ていた。

 

後ろからなので、顔は見えないが、恐らく30代くらいの男性で、ぽっちゃりしていて、黒いTシャツにジーンズ、背中にはわりと大きめのリュックを背負っていて、頭には黒いキャップを被っていた。

 

しばらく見ていると、前の男が被っていたキャップのツバを後ろにして、キャップを被り直した。

 

僕はなんとなく、男が被り直したキャップに注目した。

 

男のキャップには白いプリント字で

「CRAZY BOY!」

と書かれていた。「!」は僕のアドリブだが。

 

宣戦布告だ。

この男は、わざわざ僕に見えるように

「オレはイカレた野郎なのさ!!」

とキャップの字を読ませることで、宣言してきたのだ。

 

もちろん男の顔は見えないが、

「どうだ!クレイジーボーイだぞ!参ったか!」

的なドヤ顔をしていることは間違いないだろう。

 

やれやれ。僕も見くびられたものだ。

確かに一瞬怯んでしまったが、僕だってもうクレジットカードで買い物できちゃう大人なのだ。

 

多少のクレイジーにびびったりなんかしない。

この男が今から仕掛けてくるであろうクレイジー

「まぁ、そういう人もいますよね。」

と冷たくリアクションして、この男のクレイジーを無効化して、この男の存在をなんか変な感じにすることくらい、今の僕には容易いものだ。

 

それから、僕は前の男の一挙一動に注目した。

男が何かクレイジーを仕掛けてきたら、ソーシャルディスタンスの範囲内で何か妨害してやろうと思った。

 

 

男のカゴにはわりと商品がたくさん入っている。

最初はカゴを手に持っていたのだが、疲れたのだろう。途中からカゴは床に置いていた。

 

そのくらいだった。

 

男は結局、クレイジーなことを何もしなかった。

 

あろうことか、お会計のときにポイントカードを使っていた。

 

僕はがっかりした。

 

イカれたクレイジー野郎がポイントをコツコツ貯めて、少しでも日々の買い物をお得に済ませよう。

としているその魂胆が気に食わなかった。

 

「クレイジー野郎がポイントカード使うなよ!てか、お前が内臓脂肪を減らす働きのある方の緑茶買うなよ!」

 

 

僕はがっかりして家に帰った。

帰ってきて、古畑任三郎を見て、昼寝をしたらもう夜ごはんの時間だった。

 

夜ごはんを食べて、課題をやろうとして、やっぱりやめて。ずいぶん前に勉強用で買った本を読もうとして、やっぱりやめて。2日無視してる先輩からのLINEを返そうとして、やっぱりやめて。腹筋を20回して、やめた。

 

 

こう書いてみると自分でもびっくりするくらい何もしていない。

 

 

 

そんな夜。そんな今日。

失恋とマヨネーズについて

ある日突然、1年半くらい付き合っていた彼女から

「距離を置きたい。」と言われた。

「今のあなたは余裕がないように見える。全然私の話をちゃんと聞いてくれない。」とも言われた。

 

その通りだった。

当時の僕はすごく忙しかった。たまたま色々なことが重なってしまい、常に何かの締め切りに追われているような状況が3ヶ月近く続いていた。

 

 

正直に言うと、当時の僕にとって彼女は

「やらなければいけないこと」よりも優先順位は低いと考えていたし、それを彼女もわかってくれているとも思っていた。

 

当時、彼女は自分の進路の相談をたくさん僕にしてくれたけど、僕の答えはいつも決まって

「きみの好きな方で良いと思うよ。」

だった。それは本心でもあったのだが、正直、彼女の相談事を深く考えてはいなかった。

 

それから少ししてから僕たちは距離を置くのではなく、別れることになった。

 

フラれた男のほとんどがそうであるように、僕は別れてからやっと彼女のことについてちゃんと考えるようになった。

 

彼女といると、朝が楽しかった。昼が楽しかった。夜が楽しかった。

だけど、それを僕が全部壊した。

 

 

「距離を置きたい。」と言われたその日も僕はかっこつけてずっとヘラヘラしていた。あなたがそうしたいならそうする?的な顔でずっといた。

 

それを見た彼女が悲しんでいるのがわかっていたのに、それでも僕はヘラヘラすることをやめなかった。本当はすぐにでも泣きたかったし、本心を彼女にぶつけたら、良い方向に戻れることもなんとなくわかっていたが、僕にはそれができなかった。

 

 

そんな自分が大嫌いになった。

彼女を大切にできなかった自分。彼女のことがわかっていたのに、わかっていないフリをしていた自分。最後まで本音を出せなかった自分。ずっと自分に言い訳してた自分。自分が悪いのに、自分が壊したくせに、被害者面して悲しがってる自分。

 

とにかく自分が嫌になった。

独りよがりな自分が嫌だった。何もできない自分が嫌だった。

なんで自分が生きてるのかもわからなくなっていた。

この先、自分の人生に楽しいことがあるという想像が一切できなくなった。

 

世間がクリスマスで華やかなムードの中、僕は逃げるように毎晩飲んでいた。

 

ひたすらバイトをして、お得意の効率の悪い方法でテストに向けて勉強をして、夜はアルコールを摂って、寝る。

 

ずっとそんな生活だった。

 

 

 

 

 

 

 

僕は寮に住んでいるのでありがたいことに、朝ごはんと夜ごはんを寮母さんが食堂で作ってくれる。

 

 

寮の食堂はおかずをカウンターでもらって、ご飯と味噌汁、調味料はセルフサービスになっている。

 

その日のおかずはハンバーグだった。

付け合わせにほんの少しの、蒸したニンジンとブロッコリーがあった。僕はそれに、マヨネーズをかけた。

 

席に着いて、改めて自分のハンバーグのプレートを見た。

ちょっとのニンジンとブロッコリーに対して、まぁまぁ多い量のマヨネーズがかけられていた。

 

僕は笑った。

 

さっきまで、「何が楽しくて生きてるのかわからない。」とか「自分はつまらない人間だ。」とか落ち込んでいたのに、ほんの少しのニンジンとブロッコリーを少しでも美味しく食べようと、僕はわざわざ調味料コーナーまで行って、マヨネーズを手に取って、まぁまぁな量をニンジンとブロッコリーにかけたのだ。

 

「いや、お前いま、ほんのちょっとのニンジンとブロッコリーを最大限楽しもうとしとるやないか!」

「ちょっとでも今日の夕飯を楽しもうと、マヨネーズまぁまぁな量かけとるやないか!」

「お前、少しでも自分の人生楽しもうとしとるやんけ!」

 

こうやって自分につっこみをいれたとき

あぁ。もしかしたら自分は大丈夫なのかもしれない。と思えた。 

 

自分はこの先の人生も、ちゃんと楽しもうとしている。

 

 

 

 

もちろん、それで完全に立ち直れたわけじゃない。

フラれたことはずっと引きずっているし、

今でも僕は自分があまり好きじゃない。

悩んでばっかりだ。

 

でも、あの日。彼女を失って、自分が大嫌いになっていたあの日。毎日暗い色しか見えてなかったあの日。

 

 

それでも、少しでもニンジンとブロッコリーを楽しく食べようとマヨネーズをかけた自分の図々しさを、僕は少し頼もしく思えたのだ。