職務質問について
僕はたまに職務質問を受ける。
僕が捕まる場所はいつも決まって近所のスーパーの出入り口である。
毎回万引きを疑われるのだ。
今回もそうだった。スーパーで買い物を終えて外に出ると
「ちょっとお兄さん!」と言われて警察官に止められた。
「カバンの中、見せてもらっていいかな?」
いつも、このパターンである。今回は初めて見る警察官だった。
もちろん、なにも盗ったりしていないので、素直にカバンの中を見せる。
毎回、出入り口から、ほとんど移動せずにそのまま
「抜き打ち!カバンの中身チェック☆」が行われてしまうので、他のお客さんに見られるのがすごく恥ずかしいのと、この間に何か重大な事件が起きて、この警察官の出動が遅れたら大変だな…と心配になるのとで、どうしてもそわそわしてしまう。
今日のカバンの中身は
財布と定期入れと、さっき買った緑茶と歯磨き粉とピーナッツチョコとハイチュウだった。
歯を大事にしたいのか、痛めつけたいのかわからない僕の買い物ラインナップを見た警察官はつっこみも笑いもしなかった。
「あ、買ったやつのレシート財布に入ってます。」
と僕が言う前に
「財布の中も見ていい?」
と聞かれた。
財布の中にはバイトの社員証が入っていて、社員証には無理に笑顔を作ろうとして、絶妙に気持ち悪い顔になってしまった自分の写真が貼ってあるので、それを見られてまた恥ずかしかった。
学生証を見せて、カバンの中身を全部見せて、僕の疑いは無事に晴れた。
よく万引きを疑われる旨を警察官に話して、どうして僕に声をかけたのか尋ねてみると
「大きめのトートバックを持っているし、君ずっと挙動不審だし、急に途中で止まって別の方に歩いたりして、怪しかったんだよ。」
と言われた。
なんか、恥ずかしかった。
「なにやってたの?」
警察官に聞かれた。
やましいことは何もしていないが、嘘をつくのはためらいがあったので僕は本当のことを言った。
「なんか、外に出ると面白いこと見逃したらやだな。と思ってキョロキョロしてるのかもしれません。急に止まったのは一瞬目に入ったポスターを1回はスルーしたんですけど、やっぱり見ないと損かな。と思って戻ってポスターを見に行ったんです。」
僕は全部正直に話した。
警察官は共感したわけでも、なんだそれは!と笑ってくれたわけでもなかった。無表情のまま
「ふーん、ポスター、なんて書いてあったの?」
と聞いてきた。
「あ、なんか近くのお寺、朗読会やってそれをYouTubeで発信するらしいです。」
「へぇ…、見るの?」
「いや、見ないです。」
5秒くらい沈黙があった。
耐えられなくなって、沈黙を破ったのは僕だった。
「あの、僕、同じ警察官の人にまったく同じ場所で何回も職質受けて、そのたびに何もないね〜って言われるのに、それでもまた職質受けたりするんですよ。これって、警察の方々で僕がいつか本当に盗るの待ちだったりしませんか…??今回こそは…!!みたいに楽しんでる部分ないですか?」
警察官はやっと笑って
「そんなことないですよ笑」
と言った。
図星かも知れなかった。
警察の人に敬語を使われたのはこれが初めてだったのだ。