わけの解らない東京について
中二病という病にがっつりかかっていた僕は、
上京が決まった高3の時期に「東京」というタイトルがつく曲を片っ端から調べて聴きまくっていた。
これらの曲のほとんどが、上京する若者の決意や、戸惑い、都会の荒波に揉まれながらも懸命に生き抜く様などを歌っていて
「俺も、こんなんなるんやなぁ…」
とまだ福岡の実家にいるにも関わらず、早くも感傷的になっていた。
特に好んでよく聴いていたのは
KMCの「東京WALKING」
くるりの「東京」
だった。
『東京の街に出て来ました。
あい変わらずわけの解らない事言ってます』
くるりの「東京」はこのようなフレーズから始まる。
確かに僕が上京したその日から、東京はわけの解らない事を言っていた。
羽田空港に着いた。
「ニューヨークスタイル!」
というわけの解らないうたい文句のチーズを使ったスイーツに、大勢の人が並んでいた。
「北海道チーズ!なら美味しそうなイメージあるけど、ニューヨークのチーズって全然うまそうじゃねぇな。これにみんなそんなに並ぶのかよ。」
バカで中二病な僕の率直な感想だった。
空港から自宅までいくのに電車の乗り換えを調べると、4つの路線を乗り換える必要があることがわかった。わけが解らなかった。
品川~新宿間で乗った山手線の車内では
標準語、方言、外国語が飛びかっていてわけが解らなかった。
新宿に着いて、せっかくだから都庁を見に行こうとしたのだが、駅の構内は様々な案内板や出口がごちゃごちゃあって、わけが解らなかった。
結局僕は南口に出て、そこから都庁に行くのにもずいぶん時間がかかった。
新宿には
わけの解らない服装をした人々たくさんいた。
わけの解らないカタカナの名前で、わけが解らないくらい大きさのビルがいっぱいあった。
何屋なのかわけの解らないお店がいくつもあった。
新宿、東京は当時の僕にはわけが解らなかった。
東京にきて3年目になった。
(警察は僕が万引きするのを待っているのかも…)
今年の冬は帰省のお土産に空港で列に並んで「ニューヨークチーズ」のスイーツを買った。
(多目的室を多目的に使ったことがない…)
家族と食べたニューヨークチーズは美味しかった。
(O型はなんでも許される…)
今では電車の乗り換えは間違えずにできる。
(CRAZY BOYと書かれたキャップ被ってるやつがポイントカード使うなよ…)
山手線はイヤホンをして、ひたすら遠くを見ていれば魂を殺せて、何も気にせずに乗っていられることがわかった。
(失恋した直後にマヨネーズを見たら元気が出てきた…)
新宿の地理にはまだ自信がないけど、お気に入りのショップをいくつも見つけたし、駅から都庁へはスムーズにいけるようになった。
(自粛がつらくなったら、タンポポを思い出す…)
振り返ってみると、3年前に比べて東京が言ってることの意味が解るようになってきた気がする。
(ノートパソコンとダイオウイカの寿命は同じ…)
(好きな食べ物は?の質問の正解はコロッケ…)
(ラブホテルが俺のセリヌンティウス…)
(ツーブロックは刈り上げてと言えば恥ずかしくなく頼める…)
(俺は自意識過剰マンや…)
振り返ってみると、あい変わらずわけの解らないことを言っていたのは僕の方かもしれなかった。
くるりの「東京」の中でわけの解らない事を言っていたのは誰だったんだろう。
もう一回聞いたら、わかるかもしれない。