黒歴史日記。

なで肩です。

母について

今日は母の日だ。

日頃の感謝の気持ちは母に直接伝えたので、この記事では母にまつわる忘れられないエピソードについて書こうと思う。

 

ある日、母が仕事から暗い顔で帰ってきた。

自分のカバンをドンっと机に置いて、一目散に自分の部屋に消えていった。

「何かあったんだろうな。」

僕は思わず母のカバンを覗いた。

封筒に入ってない、白地の手紙が入っていた。

 

そこには、母への嫌がらせの言葉がつらつらと書かれていた。

 

母は強くて弱い人だった。

頭の回転が早い人だから仕事はできる。が、いわゆる女性同士の「群れ」や「馴れ合い」みたいなのをとことん嫌う人だった。トイレも1人でいくし、昼食も1人で食べるし、飲み会にも滅多に顔を出さない。

 

それができる強い人だった。ただ、社会で生きていくには「群れ」も必要だ。「馴れ合い」から生まれる絆もある。ただ、母にはそれを認められる強さは無い。弱い人だった。

 

そんな母を良く思わない人がいたのだろう。

ある日突然、母のロッカーに嫌がられせが書かれた手紙が貼られていたらしい。

 

僕はその手紙を読んで、違和感を感じた。

どう考えても、母への嫌がらせの言葉に込められている黒くて重たい思いと、手紙に書かれている軽い字とが、合わない。手紙の字体と内容が結びつかない。

 

僕は、勉強はからきしだがその手の勘は鋭い。

重たい内容に対して、字体があまりにも若くて、軽すぎるのだ。恐らく、手紙の主は自分の娘か誰かに代筆させたのだろう。仕事中、母と手紙の主はメモでのやりとりもあっただろう。自分で書いてしまうと筆跡で手紙の主が自分とバレてしまうかもしれない。だから、娘か何かに頼んで書いてもらったのだろう。

 

僕は悲しくなった。母が悪口を言われたのはもちろん悲しかった。つらかった。だけど、大人になっても、大人になっても、悪口を手紙に書いてこっそりロッカーに貼るような、卑怯な奴がいる。気に入らない相手に対して、対話や解決ではなく、攻撃、しかも自分にはまったく痛みが伴わない攻撃しか出来ない奴がいる。そんなしょうもない奴も、普通に大人になって仕事をしている。そして人を愛して、結婚もする。こんなにしょうもない奴が、人の親になる。そして、母親に頼まれた悪口を、そのまま書いてしまえるような娘がいる。

 

 

その事実にとても悲しくなった。

知りもしない相手の悪口の手紙を書くように言われた娘は、一体どんな気持ちでこの手紙を書いたのだろう。強制されてイヤイヤか。それとも、自分も楽しんでケラケラ笑いながら書いたのか。

 

どの道理解ができない。

 

もし、自分だったら。自分が、愛してやまない親に、人の悪口を手紙で書くように言われたら。

 

とんでもなく絶望するだろう。この先の人生全てが暗く見える。裏切りなんて言葉じゃ済まされないくらい、信じていた親に絶望して、人生にも絶望する。

 

ちなみに、母が落ち込んだのはほんの一瞬で

「しょうがなかね〜。」と一言いって、すぐに転職をした。手紙は破りもせずにそのまま捨てて、決して手紙の送り主を責めたり、悪く言ったりはしなかった。

 

今思えば、母はその会社のライバル企業のようなところに転職したから、普通に腹は立っていたのかもしれないが。

 

母は今の職場ではかなり自由に楽しくやっているようだ。副業というほどでは無いが、趣味を形にもでき、自分の好きなことが同じように好きな仲間たちに囲まれて幸せそうに暮らしている。

本当に良かったと思う。

 

 

 

手紙の送り主とその娘さんは、僕たちのことを覚えているだろうか。いや、きっと覚えてないだろうな。

あれから数年経ったが僕は今日まで覚えていた。

この日をきっかけに、母の強さ、人の弱さ、自分がどう生きたいか。を知ることができたから。

 

今日は母の日だ。あの2人は今日も一緒に暮らしているのだろうか。今も、あの2人は同じような事を繰り返しているのだろうか。

 

いつか、人の痛みがわかる人間になってくれたらいい。

そうしたらあの2人は、今よりもっともっと幸せに暮らせる。

 

 

 

まぁ本当は2人のしあわせなんて、僕には心底どうでもいいが。